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タミフルより有効な連花清瘟カプセル

 中国でも新型インフルエンザの拡大が続いている。第2波到来が警戒されるなか,10月下旬の観測によると,例年より早いペースでインフルエンザ患者が増加している。上海市ではインフルエンザ感染者のサンプルを検査したところ,新型インフルエンザの感染者は47.31%に達したと報告されている。さらに中国衛生部では,インフルエンザ患者の8割が新型インフルエンザ感染者であると報道している。

 中国では,小中学生や医療関係者,交通関係者など緊急性を要する人たち3.9億人に対してワクチンの緊急無料接種を順次行っているが,「ワクチン接種が新型インフルエンザの感染を助長している」といったデマが流れるなど,この広い国土で接種を確実に行っていくのは並大抵のことではない。また中国では3歳以下の子供や妊婦に対する新型インフルエンザワクチンの接種を認めておらず,新しいワクチンだけに経験不足の点も否めない。一方,中国では比較的初期から中薬による予防・治療の方案を実行してきた。その成果の1つが連花清瘟カプセルだ。

 連花清瘟カプセルの処方内容(連翹・金銀花・炙麻黄・炒苦杏仁・石膏・板藍根・錦馬貫衆・魚腥草・広藿香・大黄・紅景天・薄荷脳・甘草)は大まかに麻杏石甘湯と銀翹散の組み合わせになっている。いずれも,過去に伝染病の治療で威力を発揮した名方で,主な効能は清瘟解毒・宣肺瀉熱とされている。発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛などの症状を改善する。

 中医学では,インフルエンザの原因として「外邪」の存在に注目するが,それ以外にも内因として「内火」の存在も考える。インフルエンザ患者の多くが,発病前にのどの痛みや口内炎,歯茎の痛みなどを訴えるが,これらが内火と関係があり,さらに「上火」の状態となっていることもある。そのため単純に抗ウイルス治療だけでは十分に効果が上がらない。インフルエンザの治療では,必ず外邪を散らし,内火を冷まし,抗ウイルス作用のある処方を総合的に運用する必要がある。まさにこれら作用を組み合わせたのが,連花清瘟カプセルなのだ。

 外邪が体を襲った場合,真っ先に出てくる症状が鼻づまりや鼻水,くしゃみなどの表証の症状だ。そこで連花清瘟カプセルは解表祛邪によってこうした症状を解消する。解表では適度な発汗を伴うが,西洋薬の感冒薬にあるような眠気や体のだるさを伴うことはない。

 さらに処方からみると,体内にある内火を清瀉する力も強いことがわかる。石膏・貫衆・金銀花・連翹などに内清火熱の作用がある。さらに大黄は清火の力が強く,体内に蘊積した火熱を大便から排出させる。これらによって体内に残る発熱の原因を排除し,体温を自然に下げる。人体の体温中枢に作用して解熱するアセトアミノフェンなどの西洋薬とは異なり,体内の毒火を除くことにより発熱の再発を抑える。

 連花清瘟カプセルにはチベット高原に生育する紅景天も含まれている。紅景天には免疫力を高める作用があり,インフルエンザ患者の体質を強化し,回復力を高める目的で用いられている。

 連花清瘟カプセルは,2005年に中国衛生部が定めた『人禽流感診療方案』で治療推薦薬として記載されており,さらに2008年の四川省大地震の際にも,中国国家中医薬管理局によって被災地での推薦感冒治療薬に指定されている。2009年には衛生部の『人感染甲型H1N1流感治療方案』にも治療推薦薬として記載された。

 2009年8月21日に行われた「新型インフルエンザに対する中薬の戦略フォーラム」において,北京地壇医院は66例の新型インフルエンザ患者に対する,タミフルと連花清瘟カプセルの無作為化臨床試験の結果を発表した。それによると,タミフルを使った群の入院期間が4.6日であるのに対して,連花清瘟カプセルは4.35日であった。解熱に要する時間も,タミフルの平均2.8日に対して,連花清瘟カプセルは2.13日であり,いずれも統計学的に有意であった。さらにのどの痛みや咳・痰の症状改善に関して,連花清瘟カプセルのほうが経過が良好であった。

 連花清瘟カプセルは,こうした治療における優位性だけでなく,患者の経済的負担が少なく評価が高い。連花清瘟カプセルの価格はタミフルの8分の1にすぎない。

 連花清瘟カプセルは,実験でも様々な検証 が行われている。これまでの研究では,広範囲スペクトラムの抗ウイルス活性を有し,体外研究では,H3N2型ウイルス(A香港型)でも明らかな抑制作用がみられた。またインフルエンザウイルスFM1感染マウスに対して,肺指数の増加と肺炎による死亡を減少させることができた。体外実験では,インフルエンザA3ウイルス,ヒトパラインフルエンザウイルス1型,RSV,アデノウイルス,単純ヘルペスウイルスなどに抑制作用があることもわかった。特にインフルエンザウイルスと人パラインフルエンザウイルスに対しての抑制力が最も強かった。また良好な抗菌消炎作用も確認されている。インフルエンザだけでなく,SARSウイルスに対しても一定の抑制作用が確認されている。

 このように中薬は一般的な抗ウイルス作用のある西洋薬と比して,作用部位が多く,解熱消炎抗ウイルス作用以外にも,人の免疫力を高める作用も兼ね備えているため,症状の改善に大いに役立つと考えられている。

 新型インフルエンザの全世界での本格的流行が始まったいま,こうした中薬の活用が望まれているが,残念ながら中国でも一部薬局で連花清瘟カプセルが手に入らなくなっており,中薬の供給面での不安も抱えている。(2009年11月記(2009年9月14日「中国中医薬報」より) 藤田 康介)


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